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運転免許の欠格期間及び点数制度についての提言

運転免許制度に関する懇談会

平 成 13 年 7 月


運転免許制度に関する懇談会 名簿

(五十音順、敬称略)

座  長 石井 威望 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授

  宇賀 克也 東京大学大学院法学政治学研究科教授

  木村 治美 エッセイスト 共立女子大学国際文化学部教授

  桑原 雅夫 東京大学国際産学共同研究センター教授

  菰田  潔 自動車評論家

  鈴木 春男 千葉大学文学部教授

座長代理 長江 啓泰 日本大学名誉教授

吉村 秀實 富士常葉大学環境防災学部教授

運転免許の欠格期間及び点数制度についての提言

はじめに
 飲酒運転や無免許運転といった悪質・危険な運転によって引き起こされた悲惨な交通事故が後を絶たない状況にある。このような中、交通事故によって親族を亡くした遺族を中心として、運転免許の欠格期間や点数制度の厳格化を求める声が上げられ、そのような考え方が広まりを見せている。
 また、道路交通法改正の際のパブリックコメントにおいても、改正の内容とは直接関係しないものの、免許の欠格期間を延ばすべきではないか、あるいは、免許の取消し等を厳格にするべきではないかといった意見が寄せられている。 
 運転免許の欠格期間や点数制度は、7,500万人を超える運転免許保有者を対象とするものであるため、この制度を今後どのようにするかは国民に大きな影響を与えることとなる。この点に配慮しつつ、当懇談会において、運転免許の欠格期間及び点数制度の在り方について検討を行った結果は、以下のとおりである。
 道路交通法の一部を改正する法律案の審議において、衆議院及び参議院の内閣委員会は、酒酔い運転等悪質な違反行為に対する点数や免許の取消しの場合の欠格期間の在り方等について更に検討を行うとともに、それにより人を死傷させる行為の厳罰化について、関係行政機関の間において速やかに検討を行い、その法制化に向けて、所要の措置を講じることを求める旨の道路交通法の一部を改正する法律案に対する附帯決議を行った。


1 基本的な考え方
 点数制度は、大多数の普通の運転者を対象としたものであることを基本としつつも、少数の悪質な運転者に対してもきちんとした対応ができるものであることが求められると考える。
 点数制度には、違反をした者への制裁、違反行為の抑止、危険な運転者を排除することによる事故の防止という三つの側面があり、交通事故による被害の結果も評価の対象となる。もっとも、事故を起こした運転者に対しては、刑事上の責任、民事上の責任及び行政上の責任の三つがバランスよく追及されることが肝要であり、点数制度は、行政上の責任追及手段としての運転免許の行政処分(免許の取消しや効力の停止)の目的を達成するのに適合的なものでなければならない。
 行政処分を含む運転免許制度の最終的な目的は、交通事故の防止であるが、これを達成するためには、悪い行為にペナルティを課すだけでなく、運転者を全体としてよい方向に誘導するという仕組みも求められる。
 一方、点数制度は、7,500万人という極めて多数の国民を対象とするという運転免許制度の特質に対応して、処分基準を明確にすることにより、都道府県公安委員会によって判断の差異が生ずることを防ぎ、国民の側にも予めどのような処分がされるかを知らせ、それにより違法行為を抑止するという機能を有しており、そのような機能が今後とも発揮できるような制度でなければならない。したがって、個別の行為の非定型的な危険性の程度を点数制度に盛り込むことや、当該違反行為が極めて悪質であることを理由にして点数制度外の扱いを行うような制度を設けることは適当ではないものと考える。



2 運転免許取消し後の欠格期間について
 運転免許を取り消された者には欠格期間が指定されるが、現在の規定では取消歴のない者の場合は最長で3年とされ、最も悪質な違反である酒酔い運転を行い、専らその者の責任で、人の死亡という最も重大な結果を起こした者であっても、欠格期間は2年にとどまることとされている。
 このような悪質な運転をして死亡事故を起こした者に対する現在の欠格期間の基準は、短すぎると考えられ、1回目の取消しの場合であっても、5年の欠格期間を指定することができるようにすべきである。
 また、現在の基準では、取消しが2回目以降の者(前の取消しから一定期間内にある者に限る。)の場合は、欠格期間が2年間延長されることになっているが、それ以上の延長はないこととされている。3回目、4回目と取消処分を受ける者については、2回目と同じ扱いとすることは適当でなく、そのような場合を含めて、最長でも5年としている現在の法律上の欠格期間について、更に長い期間を指定することを可能とすることを検討すべきである。このことは、一定期間が経てば過去を問わないとする制度があるにもかかわらず、更に違反等を行ったのであるから一層厳しくともよい、という考え方からも是認できるものである。
 ただし、「永久に欠格」とすることは、運転者を全体としてよい方向に誘導するという点数制度の機能に照らすと問題があり、本人が努力すれば再度免許を取得できるという道は残しておくべきであると考える。
 なお、悪質な違反による事故を起こした場合において、刑罰の期間の方が欠格期間より長いという事態については、刑罰が終わればすぐに免許を取得し、運転できることから、欠格期間の意味がないのではないかと問題視する見解もあり得るが、刑事責任が個々の事情に対応して定められるのに対し、欠格期間は点数制度という画一的な基準によって定められることから、やむを得ないものと考える。



3 点数累積等の特例について
 1年間無事故無違反であれば、それ以前の違反や免許停止歴をなかったものとして扱うとする特例制度については、違反者に甘いものとの批判がある。
 しかし、この制度には、違反をした者が遵法運転を行うように努めることへの強い動機付けとなり、またその間の遵法運転が習慣化することを通じて、運転行動を改善するという高い機能がある。
 確かに、このような特例制度がなければ死亡事故を起こす前に免許を取り消されていたはずの者もいるが、1の点数制度の基本的な考え方に照らし、運転者を安全運転に誘導するという効果があるこの制度は、基本的に維持すべきものであると考える。
 もっとも、この特例制度について、無事故無違反の期間を1年としていること及び1年間無事故無違反の効果が過去のすべての違反や停止歴に及ぶことについては、例えば、無事故無違反の期間をより長期にする、あるいは、無事故無違反の期間が1年間の場合は違反や免許停止歴の全部ではなく一部に限って軽減されるにとどめるというように、より限定的なものとするという考え方もある。また、重大事故を起こした者や繰り返して違反をした者等に対しては、この特例制度を適用しないといったことも考えられる。
 他方、このように制度を改めた場合、無事故無違反の期間がより長期になることにより遵法運転に向けた意欲が低下する、あるいは、制度が複雑化するため、運転者にとって分かりにくくなり効果が薄れるおそれがあるという面もある。
 したがって、特例制度の内容については、これらの両面を踏まえた上での検討が求められる。
 なお、この特例の要件となる無事故無違反期間について、現在の制度は、免許の停止期間や免許が失効した期間も含めて1年間としているが、違反をした者を遵法運転に誘導し、その習慣化を図るというこの制度の目的からすれば、不合理であり、運転可能期間に限る(運転可能期間が1年間以上あり、かつ、その期間無事故無違反である場合に限る)こととすべきである。



4 死亡重傷事故の点数について
 現在の制度では、違反をして事故を起こし、人を死亡させた場合であっても、その事故に責任がある者については違反の点数に9点(事故を起こした者に専ら責任がある場合は13点)が付加されるのにとどまる。このため、死亡事故を起こした場合でも、ほとんどの場合、事故を起こした者は、免許の効力の停止処分を受ければすむことになっている(事故を起こした者は、専ら責任がある場合、悪質な違反をした場合又は免許停止歴等がある場合に限って、免許が取り消されることとなる)。
 死亡事故を起こした者の責任の重さを考えれば、原則として免許を取り消すこととするのが社会通念としても適当であると考える。ただし、死亡事故を起こした側に責任が全くなく、あるいは、責任があったとしてもその程度が極めて軽い場合にまで免許を取り消すことは不適当であり、また、状況に応じて、責任の程度が軽いと認められるような場合には、軽減措置が適切に講じられる必要がある。
 一方、重傷事故については、現在の制度では、被害者が30日以上の治療期間を要する場合にはすべて同一の取扱いとなっているが、その中でも重いものにつき、付加点数を重くする必要があるかどうかが問題となる。
 この点については、傷害の程度は死亡のように明確でない、治療期間が当初の見込んだ期間から結果的に延びる場合もあるなどの問題もあるが、治療期間が30日以上の事故のうち、特に重い事故や重度の障害が残ることが見込まれる事故とそうでない事故とを合理的に区別し、かつ、的確に運用を行うことができるような基準を設定することが可能であれば、検討を進めることが適切である。
 なお、死亡重傷事故のうち、被害者側が、シートベルト装着のように安全のために当然に講じておくべき措置を怠っていたようなケースでは、自らの安全を守ることの大切さ、責任の均衡といった面から、被害者側の責任を加味して、処分を軽減するといった措置を講じることが期待される。



5 その他の点数制度上の措置
(1)飲酒運転等に付すべき点数について
 飲酒運転については、悪質な違反であって、かつ、酒を飲んで運転するという故意によるものであることからすれば、現在の点数よりも厳しい点数を付することが適当である。
 このうち、酒気帯び運転については、現在は6点で、免許停止になることにとどまっているが、飲酒運転防止の観点からすれば、取消しの対象にする、少なくとも事故を起こした場合にはすべて取消しの対象となるような点数にすることについて検討することが適当である。
 これに併せて、その他の悪質性の高い違反についても、悪質さの程度を踏まえて、適切な点数を付すこととすべきである。

(2)危険性の程度に応じた区分について
 点数については、違反行為の形態に応じて定型的に付すべきものであり、同じ違反について、周囲の状況を踏まえた具体的危険性の程度に応じて点数を変える(例えば、同じ信号無視でも、周囲に人がいて危険な状況である場合とそうでない場合とで点数を変える)といったことは不適当である。
 なお、このことは、危険性の程度が定型的に異なる場合に差異を設けること(例えば、大型の車両の場合に事故の場合のエフェクトがより大きいことを理由として異なる点数とすることや、高速道路における違反がそれ以外の道路における違反よりも危険性が高いと認められる場合に点数を区分すること等)を否定するものではないことは当然である

(3)複数違反の評価について
 違反の点数については、これまで複数の違反をしてもその最も高い点のみで処理されてきた(酒気帯びの場合は若干の加算制度があるが、合算ではない)。個別具体的な事故において、事故の原因となった違反が複数であるといったときもそのうちの一つによるとすることは、一般的には合理的であると考えられる。しかし、無免許運転のように、運転の前提となる資格がないのに運転をしたという点で他の違反とは全く別のものについては、例外として合算をすることの合理性も認められる。

(4)保有免許に応じた区分について
 免許保有者にその保有する免許に応じた責任を求めるという考え方からすれば、保有免許に応じて点数又は処分を区分する(例えば、大型や二種免許の場合はより重いものとする)ということも考えられる。しかし、これについては、免許の取消し等の処分が保有する免許の種別に関係なく行われるという現在の制度と整合性をとることが可能かといった問題もあり、引き続き慎重な検討が求められる。
 


懇談会開催経緯

1 第14回懇談会     平成13年4月25日

2 第15回懇談会     平成13年6月11日

資   料
(PDF:600kB)

1 点数と行政処分の基準

2 主な交通違反の点数と反則金の額

3 「運転者対策に関する要望」に対する意見の募集について(抄)

4 「運転者対策に関する要望」に対する意見の募集結果(抄)

5 「道路交通法改正試案」に寄せられた意見(欠格期間の延長及び
 運転免許の取消し、停止等関係)について


6 悪質・危険な運転行為等に対する罰則の引上げ

7 諸外国における欠格期間及び点数累積の特例

8 最近の重大交通事故事例

9 業務上過失致死傷罪及び重過失致死傷罪の科刑状況−通常第一審
 終局被告人の科刑その他終局区分−


10 新聞記事
  ・「機械的な求刑基準を見直せ」(平成13年3月4日毎日新聞)


11 全国交通事故遺族の会からの要望書

12 道路交通法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(抄)

資   料
(HTML形式の写し)

1 点数と行政処分の基準

2 主な交通違反の点数と反則金の額

3 「運転者対策に関する要望」に対する意見の募集について(抄)

4 「運転者対策に関する要望」に対する意見の募集結果(抄)

5 「道路交通法改正試案」に寄せられた意見(欠格期間の延長及び
 運転免許の取消し、停止等関係)について


6 悪質・危険な運転行為等に対する罰則の引上げ

7 諸外国における欠格期間及び点数累積の特例

8 最近の重大交通事故事例

9 業務上過失致死傷罪及び重過失致死傷罪の科刑状況−通常第一審
 終局被告人の科刑その他終局区分−


10 新聞記事
  ・「機械的な求刑基準を見直せ」(平成13年3月4日毎日新聞)

11 全国交通事故遺族の会からの要望書

12 道路交通法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(抄)