公安委員会に対する審査請求の実態

 北海道警察本部19階は、北海道警察本部長と公安委員のためのフロアになっている。1999年2月13日、そのフロアの会議室では「口頭で意見を述べる機会」が実施された。 交通違反の行政処分に納得しなかった“違反者”が、北海道公安委員会に対し、行政不服審査法に基づく審査請求を申し立てたのである。

北海道警察本部における、『口頭意見陳述』の音声記録

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申立
人が行政手続法第25条と発言しているのは行政不服審査法第25条の誤りです

 この「口頭で意見を述べる機会」に出席した請求人(“違反者”)は次の2点に理不尽さを感じた

    1. 主催者は自分の名前さえ最後まで自ら明かそうとしなかった。
    2. 先だって申立て人が提出した書類を読みもせずに、「あんたが言いたい事があるっていうからこの場を設けた。提出した書類のほかに言いたい事だけを述べよ」との趣旨を主催者が発言している。

  その後、請求人は新たな申立書に次の文面を添えた。

 平成11年2月22日の北海道警察監察官室幹部職員小原氏(敬称不知)を中心とした口頭による意見陳述において、小原氏は本件について審査請求人が提出した証拠調べ申請書ならびに弁明書を見ていないと述べたうえで、提出した書類に書いてあること以外の主張を言うための機会であると言った。条文には口頭による意見陳述の機会の方法について明記されていないが、口頭で意見陳述する以上、既に提出済みの資料が読まれていることを審査請求人が期待するのは当然である。小原氏は本件の争点を全く理解していない上で、再度意見陳述の機会を求める審査請求人を無視して、そのほかに主張したいことがないなら終了としたこの日の口頭による意見陳述の機会が無効であることは明らかである。これは国民の権利利益救済という行政不服審査法本来の目的のために実施されたとするには不適当であり、審査請求人が提出した証拠調べ申請書ならびに弁明書を読んだ上での改めての口頭による意見陳述の機会を求める。また、小原氏の行為は社会通念から照らしてみれば審査請求人への非礼であり、謝罪を要求する。

 この新たな申立てに基づいて、同年3月22日に再度『口頭意見陳述』を開かれた。そのなかで請求人は小原氏に対し、口頭でも謝罪を求めたがシランプリをきめこまれてしまった。
 なお、『口頭意見陳述』を含めた審査請求は、審査請求書を提出した1月22日からほぼ3ヶ月後の4月14日付けで「却下」の裁決書が送付された。つまり免許停止期間が3ヶ月以内であれば採決書を受けた時点でもはや不服を申立てる理由が存在しなくなることになる。

 採決書には次のように書かれている。


 以上のとおり、本件処分は適法妥当に行われたものと認めることができ、請求人のその余の主張を判断するまでもなく本件審査請求は理由がないから、行政不服審査法第40条第2項を適用して、主文のとおり採決する。

 つまり結局、提出された陳述書や反論書や根拠となる証拠書類を見るまでもないということだ。

考 察

 警察刷新会議では各地で公聴会が開かたが、広く意見を聞いたという実績作りのために開催していることであって、やはり公聴会での意見を反映するつもりなど最初からなかったようにしかみえない。同じように、口頭での意見陳述も実績作りのためのものであって、行政不服審査法第1条に記された「市民の権利利益の救済や、行政の適正な運営を確保」というのは名目だけなのであろう。

 警察の不祥事も相変わらずで、様々な行政の怠慢・不作為・犯罪行為には治まる気配は見えない。こうした行政の怠慢・不作為・犯罪行為による被害を他人事だと思っていると、問題が自分に降りかかってきたときに、行政の無責任や意見をいう場所の閉鎖性などに愕然とさせられることは間違いないだろう。

 またこうした多くの社会問題を、「他人の問題」「興味がない」と済ましてしまうことが、お役人らによる問題の先送りを可能にしているのに違いない。