三菱自動車vs神奈川県警

ひとは誰しも他人の指図を受けたくないものだ。
しかしながら、自分の行動を自ら客観的に評価し、
そして、自ら律することは決してたやすいことではない。
相当な注意をしていても、ひとはつい自分にあまくなってしまうものなのだ。

さて、1999から2000年にかけておきた警察不祥事の後、
外部の監察機関を推す声を、警察はかたくなに拒んだ。
そうして、神奈川県警をはじめとした地方警察は、
「監察ホットライン」あるいは「監察110番」といった名称の相談窓口を設けた。
こうした窓口によって、「開かれた警察」をアピールしようとしたのである。


民間企業のずさんな品質保証制度

まずは民間企業の例を考えてみよう。
現在では三菱自動車、少し前なら日本ハムや雪印、もっとさかのぼれば、多数のエイズ感染者を生み出した血液製剤を販売した複数の製薬会社。このように、だれもが知っている事件だけでも枚挙にいとまがない。

これらの事件が公にでたのは、被害が甚大であったからだ。表沙汰にならなかった事件や、表面化さえしない事案をすべて合わせると、そうとうな数になるはずだ。逆に、本当にクリーンな組織は皆無なのかもしれない。ある調査によると、ニッポンのサラリーマンの7~8割は、内部不正を知りながらこれに加担、または黙認した経験があるという。

お客様相談室とQA

被害が甚大になる前の対応を可能にするのは「お客様相談室」など、製品ユーザーやサービスの利用者の声に耳を傾けることである。そこで、一般的な製造業の会社を見てみよう。

三菱問題がかき消した警察の不正経理

2004年の春 北海道警察元幹部の実名告白をきっかけとして、警察の不正経理問題は全国に飛び火していた。

3/24 警視庁は、会見文書の保存延長を指示
4/28 神奈川県警が文書の誤廃棄を発表
5/3 神奈川県警は三菱自工を捜査する方針を発表
5/8 三菱自工の元役員ら5人が送検された
5/27 横浜地検は異例の道路運送車両法による公判請求を決めた

6/3 警察庁は文書廃棄部門を追加した
6/10 元社長ら2人が逮捕された  
6/12 元社長ら6人が送検された
7/1 元社長ら4人が起訴された

そして、報道は三菱一色となった


ニッポンの会社組織

お客様相談室は広報部に位置づけられていることが多い。

「顧客の安全より組織の利益」 が横行するなか、はたしてニッポン企業のお客様相談室は有効に機能しているのだろうか?

 

欧米の会社組織

QAとはQuality Assuranceの省略語。日本語に直すと「品質保証(部)」である。

筆者が米国の医療機器メーカーの工場を見学したとき、「QAは独立した権限をもって品質保持にあたることができる」との説明を受けたことがある。

すべての欧米のメーカーがこのようなQAシステムをもっているとは思えない。とはいえ、逆に日本において、ユーザーの利益を優先する企業があるのだろうか。

「ニッポンは何もかもダメ」というつもりは毛頭ない。しかし、組織の閉鎖性がさまざまな問題を引き起こしているこの国の現実を考えると、透明性の高く、その結果として、消費者の利益をないがしろにする企業が淘汰される欧米のシステムを見習うべきだろう。


 

監察ホットラインの現実

警察署には苦情処理システムが存在しない
速度取締りの取材中の筆者は、取締りの警察官らに公務執行妨害を盾にした恫喝を受けた。しかし、このことを問題提起したとしても、ニッポンの警察官が素直に認めるとは思えない。かといって、法の執行部隊である警察署には、警察官への苦情を受け付けるシステムは存在しない。そうして、現場の警察官に対する苦情は、警察本部に持ち込まれることになる。後述する監察官室職員が言うには、監察ホットラインは既に機能していないそうなので、広報課(神奈川では広報県民課)の相談センターが唯一の窓口となる。この広報課による相談センターのシステムは全国一律だ。広報課の職員は話しは聞く。しかし、苦情の内容は、そのまま苦情対象の警察署に連絡されるだけだ。つまり、差し戻しである。

警察本部の苦情処理システム
後述する神奈川県警の監察官室職員の話しによると、「神奈川県警に対する苦情窓口」は次のような位置づけになっている。

このように、神奈川県警の「監察ホットライン」は、広報課(広報県民課)が運営する相談センターの下位に位置づけられているのである。

ちなみに、現在すべての都道府県警察に設置されている相談センターは、明治時代に警察批判を沈静化するために「開かれた警察」をアピールするために設置されたモノであり、 当時から聞くだけで何もしない窓口であったと伝えられている。

リコール隠しvs警察の組織的証拠隠滅

警察が不正経理を一部認めた後に発覚した大量の文書廃棄は、組織的な証拠隠滅といわれても仕方のないありさまだ。その直後、神奈川県警は、異例の道路運送車両法違反で三菱自動車の元幹部を逮捕した。その後のマスコミ一丸となった「三菱たたき」は数ヶ月続いている。
手柄”をあげた神奈川県警は、東京新聞の取材に対し、次のようなコメントを残した。

――捜査当局として、三菱という企業体質をどう見ているか。

 隠ぺい体質。車を造るというのは、人の命を預かること。なのに欠陥を放置し続けたことは、看過できない。非常に怒りを感じる。

東京新聞 2004.06.11




警察の相談センター
日露戦争から終戦まで期間、ニッポンは軍国主義体制にあった。その当時、激しくなる警察不信を解消するためにはじまったのが、現在も続く相談窓口である。
交通安全運動の起源

警察不正支出問題
3/24 警察庁
2004年3月末で会計文書の保存期限(5年)が満了する文書について、保存を継続するよう全国の警察本部に指示した。

4/28 神奈川県警
神奈川県警会計課は、神奈川県警刑事総務課、教養課、薬物対策課、第一交通機動隊など県警本部の6部署と、3警察署の計9部署で文書の誤廃棄があったことを公表した。

5/18 警察庁
神奈川県警をはじめ、 10県警本部などで、保存期限内の会計文書を廃棄していたと発表。

6/3 警察庁
文書を廃棄した部門を追加発表。これまでに発表された部門は以下のとおり。
▽警察庁▽皇宮警察本部▽関東管区警察局▽中部管区警察局▽九州管区警察局▽北海道警察情報通信部▽東京都警察情報通信部▽北海道警▽青森県警▽岩手県警▽宮城県警▽秋田県警▽山形県警▽福島県警▽茨城県警▽栃木県警▽群馬県警▽千葉県警▽警視庁▽神奈川県警▽新潟県警▽富山県警▽山梨県警▽長野県警▽静岡県警▽愛知県警▽三重県警▽京都府警▽大阪府警▽兵庫県警▽鳥取県警▽島根県警▽岡山県警▽広島県警▽山口県警▽香川県警▽愛媛県警▽福岡県警▽佐賀県警▽長崎県警▽熊本県警▽大分県警▽宮崎県警▽鹿児島県警▽沖縄県警



2ちゃんねる
全国市民オンブズマン - 連絡会議が作成する、警察不正支出問題の特設ページ


よく言えたものだ。
三菱は救いようがないが、これから法の裁きをうけることになるわけだ。いうなれば、法の抑止効果に貢献することになるのである。
これに対し、法を執行する立場の警察は、三菱を悪者にすることで自ら“正義の警察官”を演出し、警察自身の組織的証拠隠滅疑惑を疑惑のままで終わらせてしまったのである。
こうした疑惑に対する警察の後ろ向きな姿勢は、「バレなければ何でもあり」を広く周知させることになるはずだ。

再び監察ホットラインの現実

監察ホットラインの話題に戻ろう。
警察の苦情処理のシステムは、民間企業の同等以下だ。しかし、市民に選択権のない警察の苦情処理システムが、民間企業の同等以下では困るのだ。
なぜなら、企業の製品は、消費者が自身で選ぶことができる。つまり、市場原理によって、企業は顧客の意見に耳を傾ける必要性が発生するのである。
一方、市民が警察を選ぶことはできない。「子は親を選べない」という言葉と同様、「市民は警察を選べない」のである。であるなら、不幸な市民が増加しないように、警察の公正な運営を担保するシステム作りは急務である。
さらにいえば、警察組織はもちろん、たったひとりの警察官であっても、法的および慣習的に強い権力を持っている。だから、強い権力に見合った責任を、警察組織ないし警察職員ひとりひとりが負うのは、当たり前のことだ。


法の抑止効果
 犯罪を犯した者は、その罪の重さに応じて法の制裁を受ける。
 同様に、事故を起こしたドライバーは、その過失に応じて法の制裁を受ける。
 これらが徹底されて初めて“法の抑止効果”が発生する。


警察本部の苦情処理システムの現実
1999-2000年、不祥事が続発した神奈川県警においては、「監察ホットライン」なる苦情相談窓口が設置された。2004年8月現在、この「監察ホットライン」を紹介した神奈川県警のWEBページは生きている。

前述のとおり、「警察相談センター」が苦情を警察署に差し戻しただけだったので、この「監察ホットライン」に電話してみた。そうして、電話にでた警察職員は、「監察ホットライン」が既に機能していないこと、また、「監察ホットライン」が民間企業でいう「お客様相談室」の下位に位置していたことを明かしてくれた(⇒警察の監察官室)。

警察への苦情処理制度の比較
「監察ホットライン」が有用に機能するのか、他国と比較してみよう。

  監察ホットライン(神奈川県警) CCRB(ニューヨーク) IPCC(イギリス)
形態 警察内部の1窓口にすぎない 警察から独立した民間組織 警察から独立した組織
捜査

捜査はしない

独立して捜査を行う 独立して捜査を行う
責任者 責任者は不明確 責任者は明確 責任者は明確
権限 何の権限もない 捜査、報告、勧告の権限を持つ -調査中-
活動結果 公表されていない 公表されている -調査中-
このように、他国と比較すると、監察ホットラインの機能はあまりにも貧弱だ。

警察の目論見
ニッポンは他国と比べ、会計検査院や役所の不正をも監視する公正取引委員会が小規模だ。また、行政監察などのシステムは極めて形式的である。それから、「法治国家」を標榜していながら、裁定を行う裁判所があまりにも小さい
とにかく、ニッポンは公正さを保つシステムに欠けている。
その反面、警察はやたらデカくなった。デカくなったのは、人数ではなく、予算規模と権限だ。
で、警察が何をやっているかというと、交通安全事業を柱とした権益の拡大である。

シビリアン・コントロールを拒絶する警察
警察の公正さを確保するはずの公安委員会は、まったく機能していないだけでなく、警察の責任転嫁につかわれたままである。
こうして、警察というマシーンは、強大な権力を握ったまま、その権力に見合った誤作動防止システムを持たずに拡大を続けるつもりなのだろう。


速度取締りの取材後の経過

 

本部にクレーム後の交通課長
取締りへの取材に対し、所属さえも明らかにせず、「公務執行妨害で逮捕するぞ」と脅した金沢警察署交通課長のその後の対応

警察の監察官室
監察ホットラインが既に機能していないこと、また、監察ホットラインが相談センターの下位にあることを明かしている。

大ウソ
次から次に警察不祥事がオモテ沙汰となった1999から2000年にかけて、もっとも強い批判を受けた神奈川県警は、不祥事防止策としての「監察ホットライン」を大きくアピールした。
しかし結局、この「監察ホットライン」は、有名無実であったといっても過言ではないだろう。なにしろ、民間企業でいう「お客様相談室」の下位に設けられていたのだから・・・。
2004年8月21日現在、ネット上には、既に機能していない監察ホットラインを紹介したページが今も残されている。
神奈川県警
横浜市青葉区
横浜市旭区