このコンテンツは2002年4〜8月頃に作成したものがベースとなっています

厳罰化のスパイラル〜序章〜

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「飲んだら乗るな」のウラ表

2002年改正の発端は、常習的な飲酒運転を行っていたトラック・ドライバーの重大事故にある。それゆえ 「軽微な酒気帯び運転」までも罰則化する必要はないのではないだろうか。 それに実際のところ「ビール少しなら」というドライバーは結構いるはず。 ただし、「ビール少しなら」と思っていても、「飲んだら乗るな」という金科玉条に対抗することはできない。だからオモテ出る意見は「飲んだら乗るな」ばかりになってしまうのだろう。

どうにも「日本的な裏と表」を感じてしまうので、海外の飲酒運転に関する規程を見てみよう。

アメリカでは飲酒運転の規程が州ごとに定められており、 血中アルコール値(BAC)が0.08%または0.10%を越えるとペナルティを課す州が多いようだ。 その中で、最も厳しいオクラホマ州のボーダー0.07%という数値がどの程度の飲酒なのかをさらに調べてみた。

[体重70キロの男性の場合]

・アルコール5度の缶ビールを2本程度(17.6oz)なら直後でもオーライ。

・同3本以上(26.28oz)ならアウト(8時間後でも0.07を示す“可能性”がある)。

UOPDが公開するプログラムで計算

※BAC(血中濃度)の単位は国によってさまざまだ。日本や欧州で使われる単位がmg/mLであるのに対し、アメリカではg/ml。BAC0.10%を日本式にすると1.0mg/ml。同様にBAC0.08%は0.8mg/mlとなる。

ここで注目すべきは、事実上、飲酒の許容量を公開していることだ。 もちろん但し書きがついているが、但し書きの最後は次の言葉で締めくくられている。

“The best policy is don't drink and drive”

訳すと「ベストなのは、飲んだら乗らないこと」になる。 「飲んだら乗るな」で一辺倒のニッポンとは大違いだ。

頻繁に悲惨な死亡事故が引き合いに出される日本では、「ビール少しなら」とは決して口にできないのである。しかし、低い速度規制が取締りへの反発を招いているように、 低い酒気帯び基準がさらなる反発を招く可能性は高いのではないだろうか?

ところで、 取締る立場の警察官のひき逃げ・あて逃げは、決してめずらしい事件ではありません。 そしてこれらの中には、飲酒運転の発覚を恐れて逃げた事件もあります。 これらの事件は、警察も「飲んだら乗るな」を徹底できない、ということを示しています。 警察不信対策として現場の警察官に厳しい締め付けが敷かれているはずなのにできないのである。

参考事件
閣議決定から施行まで期間に報道された警察職員による飲酒運転またはひき逃げ事件

・02.06 飲酒ひき逃げの警察官(神奈川県警)が逮捕(時事通信社)
・02.07 飲酒あて逃げの警察官(埼玉県警)が事件発覚を苦に自殺(毎日新聞)
・02.15 長崎県警の巡査部長 酒気帯び運転で物損事故(毎日新聞)
・02.25 神奈川県警の巡査部長 ひき逃げするも飲酒は不問(産経WEB)
・03.13 飲酒運転がバレた巡査長(茨城県警) 灰色の依願退職 刑事罰は不問(産経WEB)
・03.15 警部補、4軒はしごし酒気帯び運転(沖縄県警)(九州読売)
・03.29 沖縄県警の警部、懲戒免職0・35ミリグラムの酒気帯びで懲戒免職(琉球新報)
・04.02 徳島県警の巡査部長 ビール大瓶2、3本とウイスキーの水割り2、3杯で0.15ミリグラム?
            ※朝日新聞auto-ASCII242ちゃんねる
・04.03 巡査長が酒気帯びで事故−和歌山県警公表せず(サンスポ)
・04.12 春の交通安全運動初日、兵庫県警の巡査部長(42)も酒気帯び事故(読売新聞)
            ※巡査部長を停職4か月、依願退職。同乗していた巡査部長(41)は戒告処分。
・05.23 警察協力団体の懇親会で警部補が酒を飲み追突事故(栃木県警) (産経新聞)

「軽微な酒気帯び運転」の罰則化は、「悪質な飲酒運転」の抑止効果より、 ひき逃げ事件の増加を助長する効果の方が高いのではないだろうか?

少なくとも、酒気帯びを隠そうとしての当て逃げは激増するはずだ。なぜなら、その場で正直に申し出れば、「飲酒運転」の行政罰を受けるからである。逃げてしまえば、うまくいけばバレないし、捕まったとしても呼気中のアルコール量は減っている。つまり「飲酒の事実が隠せる」のだ。

一般ドライバーに広く認知されるより数ヶ月も前から、警察では「綱紀粛正」という職場を挙げての飲酒運転禁止運動が行われているはずだ。この期間に起こる警察職員のひき逃げと飲酒運転の報道を“読む”ことによって、「飲んだら乗るな」の徹底がどのような“効果”を呼ぶのかを考えてみよう。

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