減少する交通死者と増加する保険金詐欺

 警察やその外郭団体が旗を振る交通安全キャンペーンでは、「交通死者を減らす」ことが強力にアピールされている。しかし、交通取締りがなくても、交通事故による死者は減っていきます。
 もちろん悲惨な事故を減らす必要性に論は待たないが、被害者保護に偏った警察の事故処理、公開されない事故検分調書など、また訴訟制度・保険制度を含めた「事故処理システムの全体像」は、大きく歪んでいる。

交通取締りがなくても、交通死者は減り続ける

 警察は、交通死者数が減少を「交通取締りの効果」と自画自賛する。しかし、交通死者の現象は、景気後退による輸送量の減少、個人消費意欲の低下などの影響があることに間違いはない。そして現在は未曾有の不況に突入している。事故による出費を懸念しての安全運転は、さらに事故の減少を後押ししているはずだ。 つまり、警察の取締りがなくとも、交通死者が要因はたくさん存在するのである。

上の図は総務庁発表の平成9年1月現在の人口推計をグラフにしたものである。高齢化社会に突入するとともに、自家用車の登録台数は減少傾向を示し始める。その後、すくなくとも100年間は人口が減り続けると予想されている。

 そして、今後も事故が減少する最大の要因は人口の減少だ。総人口は2008年をピークとして減少に向い、本格的な高齢化社会を迎える。車の運転ができる年齢層の人口は、既に減少し始めている。したがって、免許人口も当然減って、交通死者数もそれに伴ってさらに減少する。

 黙っていても渋滞と交通死者数は緩和されていくのだ。ITSに莫大な予算を注ぎ込むことではなく、他にするべきことがあるのではないだろうか。

ITS:
高度道路交通システム

土木に変わる公共事業として、推進されている典型的な官主導型事業。例にもれず、多数の公益法人の設立を伴っている。

ITS★ザ★公共事業

死者が減り、軽傷事故が増える理由

現在の交通事故による死者数は減少傾向にあり、負傷者数は増加傾向にある。

 図2より図4は負傷の程度別に分類されたものであり、死者が減少し、重傷者が横ばいの状況のなかで軽傷者が増加していることが明らかにされている。

 なお当1とは第1当事者の意味である。

 このセクションの図は財団法人日本交通事故分析センターのホームページから拝借しております。

第1当事者(ぶつけた方)の死者数の損傷部位のデータをみると、頭部および頚部の損傷による死亡事故が減っていることが示されている。
第2当事者(ぶつけられた方)が軽傷であった場合の損傷部位を示した右のグラフを見ると、頚部への損傷があったとして軽傷事故扱いになっていることがハッキリとわかる。

 交通事故対策センターが「ぶつけられた方の意識の変化によって軽傷事故が増加している」と綴っているとおり、ゴネ得を理由とした軽傷事故が増加していることは明白だ。

 追突事故は、事故の態様としては最も多く、診断の困難な傷病である。また、『ムチ打ち症』だといえば示談交渉が有利になり、長期休業保障の材料となり得るということは、誰でも知っている。

 現在医学において、『ムチ打ち症』が患者の訴えを診断の根拠とするほかに有効な手段がないことが、こうした詐欺まがいの行為を蔓延させているしたら、軽傷事故の扱いを根本的に考え直す必要性があるはずだ。

医師の診断書と人身事故の関係

1  診断書の効力について

 医師の診断は、まず問診によって推測をたて、その推測を科学的な検査によって、より確かなものにしていく。 頭が割れ、脳が露出している頭部損傷や、X線写真で明らかになる骨折等のように明白な場合ならともかく、たとえば、整形外科領域の『挫傷』『捻挫』『靭帯の損傷』等々の傷害は、通常病院で行われるCTやMRI等最新の検査機械をもってしても損傷の根拠を得ることはできないことの方が多いのだ。

 もし、追突事故の被害者が、(痛くもないのに)「首が痛い」と言って、診断書を求めれば、医師は「頚椎捻挫」または「外傷性頚部症候群」と記載してくれる。 整形外科領域の損傷は、写真に写らなければ、問診によって、患者の状況説明と痛みの訴え(愁訴)で判断されるからである。

 医師は、自らが診察した患者の所見に、全く問題を見出すことができなくとも、患者より診断書の依頼があれば診断書を書かなければならない。そして、たとえ患者の訴える愁訴が検査結果にあらわれなかったとしても、診断書に「異常なし」と書くことが、“患者の要望”に反することを、医師は知っているのだ。
 それに、予想も付かない全く新たな傷病・疾病が存在する可能性を完全否定することはできない。したがって、医師は“無過失に”治療を要する(全治○○日)とする診断書を書くこととなる。仮病で学校を休もうとする中学生のウソを、医師が問い正そうとはしないのだ。

 なお、「痛い」といって通院を続ければ、医師は仕方なく治療を続けるほかはない。患者の要求があれば診断書も出すしかない。そして診断書の傷病名欄には『頚椎捻挫』などの傷病名を必ず入れなければならない。こうして、医師は“無過失に”患者の要望に応えることになる。

2  ゴネ得詐欺の例

  受傷の原因が、鈍的な圧迫であるなら「挫傷」とされる。同様に、一方向からの衝撃に対しては「打撲」、関節へは「捻挫」が使用される。これらの傷病は、科学的検査による根拠がなくても、患者の親告によって容易に診断されうるのである。

 ところで、診断書は、損害保険請求の際のほか、学校や勤務先を休む際に提出を求められることもある。病院にとっての患者は客であり、客(患者)の要望に対して「異常なし」と診断書に記す無神経な医師はいない。さらに、現在の出来高払いの保険制度上では、医師の所見で問題なくとも、患者が痛みを訴えれば湿布や鎮痛剤を処方し、次の診察の予定を立てるのは当然のことなのである。

 
考 察

『ムチ打ち』だとゴネて得をしようとするドライバーは決して少なくはない。この問題は、単に事故処理を不公正にするだけではなく、「追突されたら、ムチ打ちだ」とばかりに、ところかまわず駐停車するクルマの横行を招いている。


NOTICE
このセクションは、交通事故処理制度の『制度疲労』を指摘するものであって、 詐欺を援用するために書いたものではありません。

実証

診断書を得るのは簡単(別ファイル)


出来高払い制度 
ニッポンでは、医療行為の単価を厚生労働省が決めている。この出来高払い制度の問題は、「ヤブ医者ほど儲かる」といわれるように、不要な医療行為を続ける医者を生み出してしまうことである。
さらに詳しく(別ファイル)

よくあるケース

狡猾な被害者と愚鈍な警官 そして道路は大渋滞

3  考 察

もし、ぶつけた相手が「首が痛い」と言い出したときにどのような対応が可能であるかを民事・刑事・行政処分の3つに分けて考察する。

◆民 事
医師は常に無過失であり、誤診を指摘することは不可能だ。だから、相手のウソを立証できるだけの証拠を、自ら用意しなければならない。
◆刑 事
軽傷事故で起訴されることは、めったにない。⇒例外ケース
◆行政処分
現場警察官が書類を作れば、あとは機械的に処理される。なお、医師の診断書が提出されれば次の表に示された点数が付加される(道交法施行令別表第1の2より作成)。
 行政不服審査法に基づき審査請求を不服申立ての方法があるが、竹やりで戦車隊に突っ込むようなものであり勝ち目はない。
人身事故扱いとなった場合の付加点数(道交法施行令別表第1の2)
交通事故の種類 事故が専ら不注意によって発生した場合 左以外の場合
死亡した場合 13点→20点 9点
治療期間が30日以上の場合 9点→13点 6点
治療期間が15日以上30日未満の場合 6点 4点
治療期間が15日未満の場合 3点 2点
燈色部分は2002年6月1日施行
 
詐欺にあったら

「医師の診断書」に対抗することは、事実上不可能である。したがって、「医師の診断書」を盾にした詐欺に対抗するためには、賠償額の根拠に虚偽があることを立証することが必要になります。本当に詐欺なのであれば、職業や休業の事実などを偽るからだ。しかし、こうした作業を、警察や保険会社がやってくれることはありません。そして、被害者自身がこれらの作業を負担することになります。

なお詐欺が増加するのは、交通事故処理システム、医療システム、そして保険のシステムに、詐欺がつけいるスキがあるからだ。


診断書に対抗できるか?

別ファイルの実録

事故処理システムの歪(ひずみ

 警察が詐欺事件を扱いたがらないのは、ほかの事件と比較して捜査が困難だからなのは容易に想像できる。しかし交通事故分析センターでさえ、被害者のゴネ得意識が影響していることを認めざるを得ない現実は、詐欺またはそれに近い行為の増加をも示すことになる。また認知されない事故を含めれば、相当なゴネ得がまかりとおっているはずである。

 「過度な弱者救済が歩行者や自転車のモラルを低下させた」という指摘があるが、ドライバーのゴネ得ねらいのムチ打ちもその一例だといえます。

 警察がケガのあるほうを被害者、もう一方を加害者として極めて単純明快に処理することは、過度な弱者救済といえるが、自動車保険料率算定会(自算会)の査定は、弱者救済どころか「死人に口なし」といわれるほどの被害者に絶望的な処理を行ってきた。

 重篤(じゅうとく)な被害を受けた者に厳しく、軽症または無傷の“被害者”にとっては甘いのが、現在の事故処理システムの全体像だとしてよいだろう。

 算定会の査定が保険会社の利益を優先しているようにしか見えない現実は、額の大きな被害に対する補償に下げ圧力を生む反面、額の小さな被害を容認し、結果としてゴネ得狙いの詐欺まがいを蔓延させてしまっているといえるのではないだろうか。

 つまり、事故処理システムを全体として捉えれば、警察の掲げる「弱者救済」という名目は跡形なく吹っ飛び、名目とは逆に似非弱者による詐欺まがいを助長している可能性があるのだ。

損害保険料率算定会と自動車保険料率算定会が統合し、2002年7月1日に設立された団体。 「損害保険料率算出団体に関する法律」を存在根拠とし、特殊法人でも公益法人でも、また独立行政法人もない極めて特殊な団体。 この団体の行う交通事故の査定業務は、任意保険の支払いにも直結している。

この組織は、機関保険会社の利益を守るために設置された天下り先にすぎない、といった不要論は、今も聞こえている。

ジャーナリスト柳原三佳氏
TAV 交通死被害者の会


縦割り行政からの考察
「事故分析」と「損害補償計算」という 表裏一体の公益事業は、異なる官庁が所管する別々の機関 によって行われている。
事故分析:国交省
 交通事故総合分析センター
損害補償計算:金融庁
 自動車保険料率算定会
 日本損害保険協会

根本的な問題は、そこにあるのだろう。

“公益”の国際比較